春のサプライズ? A
 

 


          




 軽いお食事を兼ねたお祝いの宴は、シャンパンに始まって創作フレンチの美味しい逸品がこれでもかと並んでいるのを、こっちも食べ盛りさんたちが健啖を奮って平らげてゆき。デザートのフルーツにまで進んだところで、妖一さんからのプレゼントが披露された。

  「これ。」

 テーブルの上へと載せられたのは、一枚のDVDらしきディスクであり、え? もしかしてと、それこそ何かしらを期待したものの………。

  「お前の今期のプレイを全部浚ってあっからな。」

 反省点とか悪い癖もチェックしてある。毎日観て、フォームを直すよう意識するようにとの、ありがたいお言葉まで下さった…のだけれど。
「う〜〜〜。」
「何だよ。」
「貰っといて悪いけどサ。どうせだったら妖一の姿や声の方が嬉しいのに。」
 切なげに構えつつではあったが、それでも十分に恨めしげな上目遣いが、結構な図体をしてらっしゃるのに妙にハマッている彼なのは。ソフトな面差しのせいか、それとも…。

  “俺へは強気に構えられないってか?”

 歴然と差があるのは、見た目の体格差だけじゃあない。これでも…きっちりみっちりと、日々 基礎を丁寧に浚ってその身を鍛えている彼だと知っている。だから。腕力で来られれば、蛭魔の痩躯なぞ冗談抜きにあっさりねじ伏せることだって出来ように。そんなことで体だけ凌駕・征服したって仕方がないと、彼自身がちゃんと判っている。嫌われるのが死ぬより怖いと、いつだったか言ってた彼であり、即物的でもしようがない年頃だってのに、頑張って我慢してくれている、愛する人へはとことん臆病な青年であり。
「俺ばっか映ってる画像なんてそもそもねぇし、そんなもん作ったって面白くねぇじゃねぇか。」
 突き放すように言い返せば、う〜〜〜っと唸って、でも、それ以上は噛みついて来ない。とはいえ、しょぼぼんと落ちた肩がいかにも寂しげだったので、
“…しょうがねぇのな。”
 まだ早い時間帯だったが仕方がない。しらけちまっては それこそこっちだって面白くないしと、バカラのワイングラスの華奢な脚から手を離すと、向かい合ってた席から立ち上がり。テーブルの端を回って…すたすたと。相手のすぐ真横へ回り込み、しゃがみ込んだ妖一さんが囁いたのが、


   ――― まだ食えそうか?


 はい? と。意味が把握出来かねたらしい、微妙な表情の…それでも端正な顔を、ゆっくりこっちへと向けたのへ、
「…ってか。今から“こっち”を食えそうか?」
 親指立てて、自分の“胸元”を指し示した妖一さんであり。
「………あ。////////
 言葉少ななアプローチ。それが意味するところへ達するのに、こっちが照れるほど間のかかったアイドルさんが、まんま名前を思わせる色合いへと頬を染め、それからね。
「うん。」
 そこからは迷いなく、腕の中へと掻い込んで、そのまま抱えつつ立ち上がったから頼もしい。余裕の腕力にて抱え上げた愛しい痩躯を見下ろすべく、軽く伏せられた目許の…思わぬほど男臭い色香に、
“う…。////////
 言葉が詰まるほどの逆襲を受けながらも、相手の脇から背中へ回した手でシャツを握り込めば、了解と頷き、そのまま歩みを繰り出す桜庭で。呼吸を合わせるのも今や慣れたもの、辿り着いた寝室でも、膝下をくぐらせた手で器用にドアを開け立てする桜庭に任せたまま、蛭魔の側は何にもしない。そのくせ、ベッドへと降ろされるまま…こちらを見上げて来る眼差しには、様々に絡み合った微妙な感情を滲ませているものだから。それを真っ直ぐ受け止めた桜庭は、そおと上体を倒しつつ…大丈夫だからと撫でるように柔らかに唇を重ね合う。

  ――― 同じ熱さでしょ?
       ボクの方からだってキミが欲しい。
       だから、焦れたり むずがることは ないんだよ?

 お互いに気が済むまで、言葉はないけどもっと深い会話を絡ませ合って。こちらの首へと掴まるためにと伸びていた腕が、するりとすべって離れたの、名残り惜しげに感じていたらば。そのまま…桜庭の着ていたシャツのボタンへと綺麗な手が止まる。1つ1つ忙しげに外してゆくのを見下ろしていると、焦れたような灰色の双眸が上目遣いになって見上げて来たので、
「…うん。」
 判ってますよと小さく微笑い、上体を倒したそのままで相手の痩躯を抱き締める。撓やかな筋肉が綺麗にまといついてる背中や脇腹。その感触をカットソー越しに手のひらで確かめて。それからその手を、腰まで下ろして…濃色のセーターの中へとすべらせた。直に触れた肌は目の詰んだ練絹みたいで、向こうから吸いついてくるような愛しい感触。不意な生々しい暖かさに反応してか、かすかにわなないた震えがまた、日頃の彼の強靭さを大きく裏切るほどの愛らしさを感じさせ、
「………。」
「………?」
 途中までボタンを外し、シャツを半ばまでくつろげさせた隙間から。こちらの懐ろへと埋まってたお顔。それをそぉっと浮かせた金髪の悪魔さんへ、大丈夫だよと再度のおまじない。白い額にこめかみに、なめらかな頬に、細く尖ったおとがいに。小さなキスを幾つも落として、最後に…も一度 口許へ。深く深く絡まりあって、ほどけたりしないようにと求め合い。そのままゆっくりと倒れ込んだシーツの海で、二人一緒なら溺れたって怖くないからと、その身を互いに深く深く沈め合ったのでありました。










            ◇



 気がつけば、少しほど部屋は暗くて。窓の白々とした明るさが際立っている。このところは随分と陽が長くなったのに。なのにこの雰囲気だということは、かなりの時間が経ったらしいなとぼんやりと思った。途中から神経が焼き切れそうなほどの強い強い淫悦に襲われて、汲めども尽きず、精を吐き出しても吐き出しても限りがなく。終わりがないのではなかろうかと怖くなったくらいの絶頂に呑まれて…意識が途切れた。何度達したかも覚えていないけれど、でも。起き上がるのは億劫だけれど、何もかも投げたくなるようなといった、嫌なだるさじゃあない。ほんのりと暖かい、心地いい疲労感。たいそう暖かいものに触れていて、絶妙な温度のさらりとした湯に直に浸かっているような、そんな感触にうっとりする。見回すような仕草で首を浮かせた妖一に気づいたのだろう、

  「………起きた?」

 優しい響きの声がして、暖かい大きな手のひらが髪を梳いてくれた。これではどちらのお祝いだか判らないなと、満たされた気分のままに薄目を開ければ、

  「………桜庭?」

 双方共に裸のまんま、寄り添うように一つになってて。ふんわりと包み込まれているその懐ろの中から見上げれば。ちょっぴり切なげな…今にも泣き出したって不思議でないような、微妙なお顔をしている彼であり。陽の陰りのせいかな? いやいや、そんな単純なものじゃない、むしろ深刻そうなお顔だと気がついて、
「?」
 小首を傾げて“どうした?”と問うてみれば、

  「何だか怖いな。」
  「………何が。」
  「だってさ。」

 言葉にするのさえ憚れると思ったか、ためらうように口唇を閉じる。根気よく待てば…誠実そうな形の口許がやっと動いて。か細い声がこんなことを紡いだ。

  ――― こんなにも“与えられる”のに慣れてない。だから、

  「もしかして別れ話が待ってるんじゃないかって思って。」

 エイプリルフールはまだ先だ、馬鹿なことをと詰まらない杞憂を鼻先で笑い飛ばしてやったが、それでもやっぱり不安なのか。表情が動かないままな桜庭であり、
“………俺ってそんなにも普段はつれないのかな?”
 さぁてねぇ。覚えがないぞと不審がってる美人さんだが…自覚があったら大問題でしょうが。
(苦笑)
“しょうがねぇ奴だよな。”
 まったくよぉと呆れつつ、なのにしては…実は大好きな 彫の深いお顔を惚れ惚れと見上げ、ますますのこと精悍になって来た頬骨の辺りを指先でなぞりつつ、

  「いいか? 一回しか言わねぇから、心して聞けよ?」

 掠れているからだろう、普段と違ってほんのりと甘い声が囁いた。
「え? なになに?」
「いいから黙って聞けっての。」
 叱咤にしては静かな一言に制されて、
「………うん。」
 神妙なお顔になって待ってみたところが、





   ――― お前が 好きだ。





  「…………え?」


 深色の瞳が大きく見開かれ、でも表情は固まっていて。そんな桜庭の頼もしい首っ玉へと、腕を伸ばして搦めると。やや強引に引き寄せて、形のいい耳元へ…やっぱり小さな掠れ声にて続きを囁く。




   ――― お前だけだからな。



 こんなことをするのも、そうであるほどに好きなのも。あなただから、あなただけへの“特別”なんだからね。わざわざそれを言の葉へと乗せた蛭魔であり、


  「…………あの?」


 強ばったままの口許から、情けないトーンであふれた声。予想はしていたものの、そのまんまな反応なのへ…、

  “あれ? ////////

 何故だろうか、こっちも頬が熱くなって来た蛭魔であり。しょうがない間抜け野郎だなと、やれやれと呆れるだけだった筈が。そこからのシュミレーションには全くなかった反応が、どうしてだろうか…自分の中で立ち上がってる。触れ合ってる相手の体温を追い抜かんという勢いで頬が熱い。動悸もする。得体の知れない何にか追い上げられてるような気さえして、
「妖一…。」
「見んなっ!///////
 桜庭が何を言いかけたのかも判らないまま、しゃにむにシーツを手繰ると顔を覆い…そのままあらわになった薄い肩を翻すようにして、向こうへと寝返りを打って視線から逃れる。馬鹿だ、馬鹿だ俺。なんでこんな、だってこんなの予想になかった。///////
「ねえ、妖一ってばっ! もう一回言ってよっ。」
 こっちの赤面と動揺には気づいていないのか、振り向かせようとしながら桜庭が必死の声で掻き口説いて来たのは、それこそシュミレーション通りの言いようで、躍起になってる相手をあしらい、
「馬鹿野郎、こういうのは一回だけだから貴重なんだろがよっ。」
 肩を掴んだ大きな手を、尚のこと顔を背けるような格好で振り払いつつ。でもでも実は大誤算。なんでこんな、早く静まれよ、心臓っ。なかなかご無体なことを自分の体へと言い聞かせるのにお忙しそうな妖一さんだったりしたそうである。窓の外には、寒の戻りの冷たい木枯らし。でもでも、そんなもの関係ないと、ちょっぴり温度差の違う“熱い”に双方ともが困りつつ、微笑ましい二人がごちゃごちゃと揉めている。いい春が早く来ると良いですねぇvv



    
HAPPY BIRTHDAY! HARUTO SAKURABAvv









   clov.gif おまけ clov.gif



 やっぱりどうしても もう一回聞かせてと、ベッドから降りての土下座までして切々とお願いしたらば、
『………しょうがねぇな。///////
 本当に渋々というお顔ながら、携帯へとメッセージを吹き込んでくれた妖一さんであり。あっち行ってなと一旦お部屋から追い出され、自宅に帰ってから一人で聞けと言い置かれて、ありがたくも賜ったプレゼントは、

  【お前んコト大好きだからな。間違っても浮気なんか すんじゃねぇぞ?】

 さもないとぶっ殺すと、桜庭くんが思っていたよりも長めで、嬉しい
(?)おまけの一言まで付いた大サービスの文言で。早速にも内緒のCDに移されるわ、誰にも聞かせない“自宅用”のデジ音ツールにコピーされるわ。家宝扱いで大切にされているのだそうで。


  ――― それから、あのね?


 後になって判ったことが、もう1つあって。ずっと内緒にされていた、お誕生日当日に入っていたらしい、けれど直前にキャンセルされた“オファー”というのが、事務のお兄さんから聞けたんだけれど。超有名なカフェテラスのチェーン店が、銀座支店のオープニングセレモニーの司会と一日マネージャーにと桜庭くんを指名していたらしいのだが、当日直前、あのカウントダウンパーティーが始まったような時間帯になってから、突然キャンセルして来たとのこと。本人にさえシークレットの、サプライズパーティーにしましょう、彼ほどのアイドルさんの予定が事前に漏れてしまうとパニックが起きかねませんしと、相手の企画部長さんからそう言われていたがために、馬鹿正直にもずっと黙っていた社長だったらしく。
『まあ、契約したギャラと同じ違約金を支払っては下さったけれどもね。』
 お金の問題のみならず、あわよくばそんな大手企業とのスポンサーがつくよな“コネクション”が出来るかも…なんて野望があったらしい社長さんには、少なからぬショックでもあったらしい。で………。
“…その会社って。”
 おややと思ったそのまま、苦笑がこぼれてしようがなかった桜庭くん。だってそこってば、

  “妖一んトコの子会社じゃないか。”

 だからこそ、絶対に桜庭のスケジュールが空いていると知っていた、ううん、そうなるように“お膳立て”していた妖一さんであった訳で。これはやられたなぁと、嬉しい苦笑がついついこぼれてしまい、サスペンスドラマのスチール撮影だったのにと困っちゃったアイドルさんだったそうですよvv





  〜Fine〜  05.3.10.〜3.12.


  *な、何とか間に合ったのでしょうかしら?
   レギュラーたちのお誕生日が、一部を除き明らかになり、
   ウチの四天王の一角である桜庭君のも
   絶対に逃しちゃなんねぇと思ってはいたのですが、
   何だか急にばたばたと忙しかったので、
   気がつけば当日直前まで押してしまって、困ったこと困ったこと。
   とりあえず、ウチでの一番のお祝い、
   妖一さんと思う存分いちゃくらしていただきました次第ですvv
   我慢強くて頑張り屋さん。
   軽薄そうな“今時くん”なんかじゃなかった君に、
   出逢えたことへの感謝を込めて………vv

bbs-g.gif**

戻る